それは、一人と二匹が出会った素敵な雨の日―










Sweet Rainy Day











「傘を差しているのにこれでは意味がありませんね」

強くなってきた雨にため息をつきながら春歌は帰路を急いでいた。
台風が近づいてきているからか雨風ともに強くなるばかり。
今夜には台風直撃とニュースでも報道され、普段は人通りの多いこの道も春歌だけだった。

(早く帰って、今夜はじっとしていましょう)

そんなことを考えながら歩いていると、朝春歌が通ったときにはなかった
傘をかぶったダンボールが道に不自然に置かれている。

(なんでしょう?朝は確かなかったと思ったのですが)

春歌は不思議に思いながらダンボールに近づいていった…



一方ダンボールの中には小さな子犬と子猫が二匹…

「寒いにゃ〜」
「いってもしょうがないでしょう、まずはこの状況をどうにかしないと」
「トキヤも冷たくてこのままじゃ僕死んじゃうにゃ〜」
「何を馬鹿なことを、そんなこと言ってないでこれからどうするかハヤトも考えてください」

性格は似ていないようだが、ある意味で息のぴったりなこの二匹。
会話からするに子猫のほうはハヤトという名前らしい。
なぜ子犬と子猫が一緒にという疑問もあるが、状況からするに捨てられてしまったのだろう。

傘はかぶさっているが、風も強くなりいつ傘が飛ばされてもおかしくない状況、
このままではどう考えてもいやな想像しかできない。

「この雨では人も通らないでしょう。どうにかしないと私たちは生きていけないかもしれないんですよ」
「わかってるにゃ〜、でも僕たちに何ができるのさ〜」
「だから、それを考えるのでしょう」
「僕そういう難しいことはわからないにゃ〜トキヤが考えてにゃ」

子猫はそういうと丸まってしまった。

「まったく・・・」

トキヤと呼ばれた子犬はそれ以上は何もいわずひと…一匹で考え始めた。


(なんて、かわいらしいんでしょう)

かぶさった傘の間からダンボールをのぞいていた春歌は、二匹のあまりのかわいらしさにすっかりやられてしまったようだ。

(はっ、このままではいけませんね、周りは私以外いませんし、今夜は台風です)

春歌は自分の傘でダンボールの中がぬれないように気遣いながらかぶさっている方の傘をはずした。

「ん?」
「にゃ?」

上にかぶさっていた傘がふいにはずされ二匹の意識は上に向いた。

「大丈夫ですか?お二人ともこのままでは風邪をひいてしまいます。よろしければ私のおうちに来ませんか?」

春歌はそういい二匹に手を伸ばした。
もちろん、二匹に断る理由などあるわけもなく。

「わっ、かわいい女の子にゃっ、助かったにゃ、お願いするにゃ〜」

ハヤトはそういいながら春歌の肩に飛び乗った。

「ハヤトっ!…まったく…でも、正直助かります。お願いしてもよろしいでしょうか」

トキヤはハヤトにあきれながらも春歌の手に前足をかけた。

「はい、ぜひいらしてください。さぁ、まずはおうちに急ぎましょう。このままでは三人ともびしょぬれになってしまいます」

春歌はそういいトキヤを優しく抱き上げると今度こそ自宅へ急いだ。






三人が家に着くと同時に風雨はいっそう強くなっていた。

「ふう、危なかったです。あのままでは傘も飛ばされてお二人とも濡れてしまっていましたね」

春歌は二匹を抱えたままリビングまで来ると二匹をそっとソファにおろした。

「このままでは体が冷えてしまいますね…今タオルを持ってきます」

春歌はタンスからタオルを取り出し、二匹をタオルでくるんだ。

「ふふっ、くすぐったいにゃ〜。でもこのタオル甘くていい香りがするにゃ」

ハヤトはそういいながらタオルにもぐりこんでいく。

「こら、ハヤトおとなしくしていなさい。迷惑になるでしょう」
「迷惑だなんて、大丈夫ですから気にしないでください。わんちゃんもしっかり包まっててくださいね。
雨で少しからだが冷えてしまっているようですから。今温かいミルクを用意してきますね」
「すみません。ありがとうございます」

トキヤがキッチンに向かう春歌を見ているとハヤトがタオルから顔を出してきた。

「ねぇねぇ、トキヤ」
「なんです?」
「あの女の子かわいいだけじゃなくてなんか、今まで嗅いだ事のない、いいにおいがするにゃ」
「は?」
「きっとこれは運命だにゃ。僕あの子と暮らすにゃ」
「いきなり、何を言い出すのかと思えば…」

トキヤは興奮気味のハヤトにため息をついた。

「だって、トキヤはあの女の子可愛いと思わないにゃ?」
「それは…いえ、それと運命云々とは関係ないでしょう。…確かに何か特別なものを感じたような気は…」
「でしょでしょ!やっぱりあの子は僕たちにとって特別なんだにゃ」
「だから、どうしてあなたはそう後先考えず物事を決めてしまうんですか!」

勝手に話を進めていくハヤトにトキヤも声が大きくなっていく。

「何を決めてらっしゃったんですか?」

二匹が声のほうを向くといつの間にか手にミルクを持った春歌が立っていた。

「さあ、お話の邪魔をしてしまい申し訳ありませんが温かいうちにミルクをどうぞ」

春歌はそういうとミルクを置いた。
ミルクを飲み終え落ち着いたところで、春歌は思い出したように二匹に語りかけた。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は七海春歌といいます」
「僕はハヤトだにゃあ。ハルちゃんよろしくにゃ♪」
「ハヤト自己紹介くらいまじめにできないのですか?申し遅れましたトキヤといいます」
「お二人ともよろしくお願いします」
「今回は本当に助かりました」
「本当だにゃ。ハルちゃんは命の恩人だにゃ!」
「そんな…雨の中かわいらしいお二人を見捨てることなんてできませんし、ここはペット可の物件ですから」

春歌は二匹にお礼を言われはにかみながら答えた。
そんな春歌に見惚れながらも、ハヤトはペット可という言葉を見逃さなかった。

「ペット可なのにゃ?ハルちゃん僕、ここの子になりたいにゃ!だめかにゃ〜?」

ここぞとばかりにハヤトは春歌の膝の上にのりおねだりポーズをとった。

「えぇ?私はこのとおり一人ですし、大歓迎ですがいいんですか?探せば私よりも素敵な飼い主さんがたくさんいらっしゃると…」
「そんなことないにゃっ!トキヤもハルちゃんと一緒がいいにゃ?」
「ハヤト…ですがもし甘えていいのでしたらここにしばらくお世話になってもよろしいでしょうか?」
「トキヤ素直じゃないにゃっ。素直にハルちゃんと暮らした言って言えばいいにゃ」
「ハヤト!あなたはどうしていつもいつも…」
「ハルちゃん、本当のこと言っただけなのにトキヤが怖いにゃ〜」
「ハヤト!」
「ふふっ、こんなににぎやかなのは本当に久しぶりです。お二人ともよろしくお願いします」

春歌はそういうと二匹と目を合わせ微笑んだ。
こうして、三人の生活が始まった…

「今は僕たちまだ小さいけどもう少ししたら大きくなるにゃっ、そしたら二人でハルちゃんを守るにゃ」
「そうですね。そこに関しては私も・・・」




そんな二匹の会話を微笑ましく見守る春歌だったが、数ヵ月後本当に成長した二匹…

いや、「二人に」守られるどころか振り回されることになるが、それはまた別の機会に・・・・・・









2012.7.1  翼希
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