「はぁ…決まりません…」
春歌は寝室のクローゼットの前で真剣に悩んでいた。
クロゼットの中からいくつか候補の洋服を出し、並べてみるがどうしてもこれというものが見つからない。
「せっかくのデートです!トキヤ君と並んでも恥ずかしくないようにしなければ!」
そう、先ほどから洋服を並べながら悩んでいるのはデートの洋服。
学園を卒業して早半年、トキヤは「HAYATO」という壁も乗り越え、新人ながらドラマやバラエティなど多くの仕事が来るようになっていた。
また、春歌もトキヤ専属ではあったが、その他にドラマなどのBGMも手がけるようになり二人ともそろっての休みは取りにくい状況が続いていた。
そんな二人が明日はそろってのオフが取れたのだ。
「せっかくのオフです。あまり人の多いところに行くわけにはいきませんが、学園内の施設でしたら大丈夫でしょう」
そうトキヤが誘ってくれたのは先週の事。
春歌はその日からデートを楽しみにしていた。
寮も隣で一緒に過ごすことは少なくはないが、せっかくのデート。おしゃれしてというのは乙女として至極当然の思考。
「この白いワンピースもこっちのフレアスカートも友ちゃんに選んでいただいたものですし大丈夫だとは思いますが…トキヤ君はどちらがお好きでしょう?」
明日のことを考えながらうきうきと、でも少しそわそわしながら春歌は洋服や小物を並べ考えていた。
そんな時、静かに寝室のドアが開いた。
ドアを開けた人物はそんな春歌を見つけ、愛おしい人を見つけた喜びに表情を緩め、一生懸命考えている春歌を見守るように静かにドアを閉め、もたれた。
春歌は集中しているからかその存在に気づいていない。
しばらくその微笑ましい場面を見つめていたが、やはり愛しい人が目の前にいるのに、自分ではないモノに意識を奪われているというのは面白くない・・・
「楽しそうですね」
「はい、それはもう!明日のことを考えているだけで幸せで・・・え?」
春歌はバッとドアを振り返った。
そこには春歌と居る時にしか見せない優しい微笑みを浮かべているトキヤが。
「トキヤくん!どうしたのですか?今日は仕事で遅くなると、朝おっしゃっていたのに」
春歌はそう言いながらトキヤに駆け寄る。
驚きながらも今日は会えないと思っていたトキヤに春歌は自然と笑顔になる。
「共演者の方の都合で最後の撮影がばらしになりまして」
「そうだったんですね」
「少し、驚かせてみようかと思ったら、良いものが見れましたね」
「良いものですか?」
「えぇ、僕のこと思いながら洋服を真剣に選んでいる可愛らしい恋人の姿をね」
「っっ」
その言葉に、一気に春歌の顔が赤くなる。
「春歌。真剣に悩んで知るところ申し訳ないのですが、少しお腹が空きました」
「あっ、じゃぁお夕飯作りますね。ちょっと待っててください。///えっ」
寝室を出ようとすると入口にいたトキヤが春歌を片腕で抱き込んでしまった。
「トキヤ君?このままではお夕飯作れないですよ?」
春歌がトキヤを見上げると。
―にっこり―
「えぇ、ですから春歌を」
「へっ??」
―チュッ―
―ポスン―
トキヤは春歌を抱いたままベッドに倒れ込んだ。
「きゃっ」
「ここの所お互い忙しくて春歌に触れることができませんでした。もう限界です」
「トトト、トキヤ君!?」
「ダメですか?」
トキヤは春歌をじっと見つめる。
そんなトキヤの視線に春歌がかなうはずも無く、無言で小さく頷いた。
「ありがとうございます。春歌。愛しています」
そんなトキヤの優しいキスを受けながら、春歌は明日は一日中ベッドの上かなと考えていた。
なんにせよ、普段あまり一緒にいられない恋人と一日一緒に過ごせる。
それを考えるだけで幸せ。春歌はそっと微笑みトキヤに身を任せた…
Love Me Tender
2012.7.1 翼希
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